NPO法人 日本似顔絵アーティスト協会

Member Interview vol.9


Member Interview vol.9

『マジェリンさん&かっとさん』

(聞き手・Kage)

全国各地で活躍する、
日本似顔絵アーティスト協会の皆様の、
多種多様な考えや働き方をご紹介する、
Member Interview。

今回は、マジェリンさん&かっとさんご夫妻にご登場頂きました。

―本日も大変暑くなりました。
そんな中お時間を頂きまして、誠にありがとうございます!実はお二人のインタビューを、ぜひ読みたい、という声が会員の方々から上がっていました。

お二人はご夫婦で同じ似顔絵のお仕事をされていて、更に情報発信にも力を入れていますよね。(似顔絵情報サイト「ニテンナ」)なので、今回は特に「子育てと似顔絵について」と「お二人の活動の仕方について」をお話しできたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

 

マジェリンかっ
本当ですか。それは嬉しいです。よろしくお願いします。

 

―それではまず、お二人が似顔絵を始めたきっかけから教えて下さい。

マジェリン
私が似顔絵を始めたきっかけは、高校の時に片思いしてた先輩が似顔絵をやっていて、お近づきになりたい一心で私も似顔絵を始めました。恋は叶いませんでしたけど(笑)。
プロになったのは、第1回の似顔絵楽座(竜王賞)に出場した時に、中村剛さんに「どら似っ娘」の立ち上げに誘って頂いたことがきっかけでデビューしました。

かっと
僕は同業のまちゃ彦がきっかけです。まちゃ彦とは同じ大学の美術部でした。卒業後はWEBデザインの仕事を少ししながらバイトをしている状況で、まちゃ彦と一緒に何かクリエイティブな仕事が出来ないかなと思い、似顔絵を始めました。

僕は小河原智子さんの本を読んで、1ヶ月ほど練習して、まちゃ彦のとなりで路上似顔絵を始めたのが最初です。当時はmixiを通じて直接いろんな似顔絵師さんとつながることができて、スゴイ似顔絵師さんたちがたくさんいるんだなと、どんどん似顔絵の面白さと、似顔絵師さんの人柄の面白さにもハマっていきました。
仕事のきっかけは洋一丸さんです。似顔絵を始めたばかりで下手だった僕を現場に入れてくれて、隣でいろいろ学ばせて頂きました。

 

― 今の絵に到達する過程で、とくに影響を受けたアーティストはいますか?

マジェリン
絵柄に影響を与えてくれた人と、活動の仕方に影響を与えてくれた人と、います。

まずは絵柄的はお話しで、似顔特有のデフォルメの面白さとスピードとパフォーマンスの凄さをコオロギさんから教わった気がします。素直に似せる大切さは旦那のかっとから。そして絵を仕上げる技術と、似せる技術を混ぜるコツみたいな部分はぶんころさん、なちさん(越前奈都子さん)、YOSHiEさんの影響を受けました。

かっと
僕はマジェリンとは逆で、僕にはマネできない、という考えが根底にあって、今の自分の作風に辿り着きました。例えば、コオロギさんは10分くらいですごく良い絵を描かれるんです。同じ値段で同じ時間で、僕には描けないと思いました。それなら20分かけても構わないから、同じクオリティを目指そうと思いました。むしろ20分は絶対かけようという考え方が、今の絵になった気がします。

 

―面白いですねェ。
私事で恐縮ですが、私はもともと楽しい絵を見ることが大好きで、たくさんのアーティストから影響を受けました。お陰様で技術に対する知識や表現の幅は広がりました。でも、今は模写などはほとんどしないようにしています。参考も過度にすると、自分の表現に躊躇いが出てきてしまって。モデルを前に七転八倒するのが自分らしいと、今は思っています。だからお二人の両方のお話しがとても理解できました。

次に、活動の仕方で影響を受けたアーティストはどなたですか?

 

マジェリン
Kageさんはサカナクションってご存知ですか?私たちは彼らの活動から影響を受けています。

 

―ミュージシャンから?それは興味深いです!
 具体的にどのような活動に影響を受けたのでしょうか?

マジェリン
サカナクションの活動は主に3つあると思っていて、1つ目はサカナクションはミュージシャンなので、活動の軸として楽曲の制作・CD販売・ライブをしていますよね。これは似顔絵でいうところの似顔絵通販や現場の絵かな、と。

残り2つの活動に凄く影響を受けていて、2つ目の活動は「スクールオブロック」という音楽ラジオです。これを通じて学生や未成年に向けて、真面目に分かり易く、時に面白おかしく音楽を伝えているな、と。このラジオが私たちの活動でいう似顔絵教室で、似せるっていう複雑な行為をもっと分かり易く伝えられないかなって、チャレンジしています。

3つ目はNF(ナイトフィッシング)という、カルチャーイベントです。NFでは一般の方々の目の前で、様々な音楽的チャレンジをしているんです。アートや映像、照明、ヘアメイク、ファッションといった異文化とコラボさせる実験をしていて、そこで得た良い科学変化やそれに対するお客様の直の反応を次の制作に活かすというサイクルが、とてもキレイだなと思って。このNFが私たちの活動の似顔絵情報サイト「二テンナ」に当てはまります。
似顔絵の考え方や、似顔絵の楽しみ方を模索、発信する事で、さまざまな反応を一般のお客様から頂ける場所です。

 

―そうだったんですね。
似顔絵に限らず、芸術というものはどこか、限られた人の特別なものとして見られるところがあって、敷居が高く感じられるように思いますが、いかにそうではないんだよ、という伝え方が出来るか。興味を持って頂くか。理解を深めて頂けるか。この活動って、作画同様に大事なことですよね。

僕は「二テンナ」の中に書かれていた、生徒さんが授業を受ける上でのアドバイスが書かれた内容に、とても共感しました。【今までの自分の歴史や、続けてきた事との共通点を探しながら、似顔絵を勉強すると良いと思う】という一節。お二人はこうした考え方を言語化するのが、とても上手だと思ったし、その伝え方も独特ですごく工夫されていると感じました。

 

マジェリン
言葉選びを褒めて頂けるのはとても嬉しいです。ありがとうございます!教室も「二テンナ」も全部、手さぐりで大変な事も多いですが、とてもやりがいを感じています。

 

―次にお二人のお仕事の仕方や、仕事の絵に対する考え方などを教えてください。

マジェリン
私は現場で絵を描くことはやっていなくて、通販がメインです。あとは月に一度の教室と、「ニテンナ」の運営ですね。

 

―現場を離れたのには理由があるんですか?

マジェリン
はい。ある日現場でお客様から大きなクレームを頂いたんです。それはゴニョ…ゴニョ…ゴニョ…。もう心が折れましたね。

 

―う~ん。。僕らも不本意ながらクレームを頂いてしまう時はあります。どんな作風であったとしても、お客様を怒らせようと意図して描くアーティストは、一人もいませんよね。でもうまく伝わらなかった時って、本当にお互いに残念な気持ちになりますよね。

マジェリン
はい。自分の絵で人を不快にさせてしまった時がとにかくショックで。ちょうどその頃に妊娠が発覚したので、これを機に現場を離れてみることにしました。通販だけをメインにしているうちに、これこそ代わりの利かない自分の強みなんだと自信を持てました。通販はたくさん存在する似顔絵サイトの中から自分の絵を気に留めてくれて、本当に有難いなと思っています。

通販の絵は出来るだけお客様に安心して似顔絵を楽しんで頂けるように、デフォルメを少しおさえるようにして描いています。描いてもらったご本人はもちろん、その周りの人からも似ていると共感してもらえるような似顔絵を心がけています。

 

マジェリンさんの通販の絵

かっと
僕は現場と通販とイベント出張をバランス良くやっています。現場は天保山マーケットプレイスにある「にがおえ団」の店長をやっています。
教室と「二テンナ」はサポートをしています。普段の仕事の絵に関しては、お客さんに喜ばれる範囲で、とにかくそっくりに描く事を優先しています。
特に赤ちゃんや子供を描くことが好きなので、子供をそっくりに描けるように、今の絵柄になりました。
隙のない絵を目指すというよりは、どの世代にも親しまれるような、人間味のある絵を意識しています。

かっとさんの現場絵

 

―似顔絵の仕事と子育ての両立について。
 お子様(3歳・娘さん)をお持ちで、ご夫婦で同じ仕事をされていらっしゃいますが、仕事と子育てをお二人でどのように時間配分をしているのでしょうか。この辺りもぜひ、お伺いしたいです。

かっと
基本は全部を二人でやっているので、時間配分や担当などの決まりは特にないです。余力のある方がその日の家事・育児を多めにやって、お互いに頑張って作画時間を確保している感じです。
なので、ただ頑張ってるだけですね(笑)。
でも出来るだけ子供の気持ちや小さな成長はそばで見守りたいので、家族のコミュニケーションは一番大事にしています。

マジェリン
…ただ3人とも喋るのが好きなだけですけど(笑)。なので、家族の時間も仕事の時間も削れないので、二テンナの更新頻度は遅いですし、作品数も多くは描けないですが、ちょっとずつでもやる事・やらない事を決めて、行動するしかないと思っています。

 

―お二人がこの仕事をやっていて感じる、やりがいとはどんな時ですか?

かっと
現場で描いたお客様が、結婚や出産をきっかけにまた来てくれて、友達や両親へのプレゼントでまた来てくれて。これだけそれぞれの家族と携われる事にやりがいを感じます。

マジェリン
私も旦那と同じ考えなのですが、他にも私たちの教室から3人のプロを生み出す事が出来ました。この喜びは何にも代えがたいものがあります。あとはプロにならなくても、似顔絵を心の拠り所にしてる人たちの役に立てている喜びも大きいです。

あとは「二テンナ」から発信した情報が、想像していなかったような反応を頂くこともあって、これもすごく面白いんです。実際、記事を読んで教室に来てくれた人もいましたし、自分たちの活動が人の行動を変えているという実感がとても嬉しいです。

 

―お二人の将来の夢をお聞かせ下さい。

マジェリン
まずは直近の目標としては、似顔絵の教科書を出したいです。似せるための技術は高度なものであるという事や、似せるという行為は美しいという事を、もっと広めたいです。なんとか今年の10月までを目標に、似顔絵に興味のある方ならどなたが読んでも楽しんで頂ける1冊を、頑張って制作中です。

あとは似顔絵通販はお客様と一対一で成立する仕事なので、そうじゃなくて1つの似顔絵を多くの人が楽しめるような仕事をしてみたいです。
今、その為に試しているタッチがあって、LINEスタンプやグッズのように、「そばに置いたり持ち運んだりしても、気持ちよく楽しめる似顔絵とは?」を実験した作風をコンテストに出しています。まだまだ自分の画力も作品数も足りていないと感じるので、ちゃんと絵も描きながら、発信と吸収を続けていきたいです。

かっと
僕の夢は「好きなことを仕事にして、幸せな家庭を持つこと」だったので、すでに叶いました(笑)。ただ、それを継続する事が難しいと思っています。そのためには現状維持だけじゃなくて、その時々に合せて変化することも大事にしています。そしてマジェリンの活動が面白くて、その先を見てみたいので、マジェリンをサポートしていきたいです。

コンテストや大会で色々と試しているタッチについては、 似顔絵ってカワイイ! カッコいい! 技術が高い! 以外にも、たくさんの魅力を表現できるものだと思うので、個人的にはシュールさ、ユルさ、ジワるような絵。そういうものを追及していきたいし、いつか仕事にも出来たらと思っています。

 

―本当に素敵だと思います。
互いの足りない所は補い合って、互いの強みは支え合って、それを活かした活動をされている。まさに理想のパートナーシップですね。最後になりますが、協会に期待することがあれば、是非教えて下さい。

 

マジェリン
「二テンナ」をやっていると個人で動く事の限界を感じる事が多いので、協会にはたくさんのブレインが集まっているからこそ期待したい事がいくつかあります。

1つ目は、似顔絵の外の世界と、異業種と関わる活動を、どんどんやってほしいです。たとえばジャパングランプリに有名人を呼んで、中村祐介賞を作っちゃうとか。あるいは脳科学者賞、資生堂賞なんかがあっても面白いかなと。

2つ目は、私自身がもっと似顔絵の魅力を具体的に追及したいので、例えば顔学会の方や脳科学の専門家などをお招きして、似顔絵でそっくり!と喜んだ時の人の脳が、どういう状態にあるのか、それは何をしている時の快楽に匹敵するのか等、色々と調べてみたいです。こうした研究もみんなでできないかな、って思います。

3つ目は、法律相談的な。
芸能人の似顔絵の名前を書いていいのか。スヌーピーなど有名キャラクターはどこまで描いてもいいのか等、普段の仕事の支援となるような相談所みたいなことをお願いできたら嬉しいと思いました。

かっと
基本的にはマジェリンと同じなのですが、あとは健康保険組合に入れるみたいな、フリーランスにとって分かりやすいメリットがあったらいいなと思います。すごく現実的でスミマセン(笑)。

 

―かしこまりました。
頂いた期待に応えられるように、協会活動に活かしてまいりたいと思います。
本日はお二人ともお時間をありがとうございました。

 

 

【プロフィール】

夫婦の活動略歴

2012年 結婚、翌年に長女を出産
2015年 マジェリン&かっとのプレゼント似顔絵教室を開講
2016年 似顔絵情報サイト「ニテンナ」を開設

 

マジェリン

1989年2月 愛知県生まれ、岐阜県育ち。中学の2年間だけフィリピンで育つ
2008年〜2010年 中日ドラゴンズ承認の女流似顔絵チーム「どら似っ娘(どらにっこ)」所属
2010年 ISCA韓国ミニコン Retail style Caricature(商品部門)1位受賞
2011年 ISCAミニコン in 大阪 スピードライクネス3位受賞

現在はプレゼントやウェディング用の似顔絵を描きながら、さらに技術向上と似顔絵の新しい楽しみ方を模索するために似顔絵の先生をしたり、似顔絵情報サイトにてライター活動を行っております 。

 

かっと

1982年2月生まれ
2005年 佛教大学社会学部応用社会学科科卒業し、WEBデザインを独学で勉強、フリーランスになる
2006年 似顔絵師になる
2008年 海遊館横の天保山マーケットプレース「にがおえ団」代表就任

現在は、関西中心のイベント出張・にがおえ団での出店・HPからの似顔絵通販受注・似顔絵教室の運営・似顔絵情報サイト「ニテンナ」の運営が主な活動です。