NPO法人 日本似顔絵アーティスト協会

Member Interview vol.22


■Member Interview vol.22 【特別編】

『ダニエル・スティーグリッツさん』

(聞き手:Kage)

全国各地で活躍する、
日本似顔絵アーティスト協会の皆様の
多種多様な考えや働き方をご紹介するMember Interview。

今回は特別編として「Japan Grand Prix 2025」優勝者である、
ダニエル・スティーグリッツさんにご登場頂きました!

―(Kage)『Japan Grand Prix 2025』優勝者、ダニエル・スティーグリッツさんにインタビューをさせて頂きました。こちらはオーストリアのホルン市。「Eurocature」の大会後、お時間を頂きました。お忙しいなか、ありがとうございます!

ダニエル(以下D):Kage―!短期間にまた会えて、嬉しいよ!たくさん語り合って、たくさん笑ったね。この時間は一生忘れないよ!

―「Japan Grand Prix 2025」では、遠路はるばる日本大会に来てくれて、心から感謝しています。そして、優勝おめでとうございます!

D:サンキュー!「Japan Grand Prix」は本当に素晴らしい大会だったよ。準備してくれた人たちにとても感謝しているよ。

―初めての日本はいかがでしたか?

D:僕は子供の頃からずっと日本の映画、小説、マンガが好きで、日本に行くことは夢だったんだ。黒澤明、宮崎駿、新海誠の映画や、村上春樹の小説、それから浦沢直樹、大友克洋、出水ぽすかのマンガなど、名前を挙げたらキリがないくらい。だからKageからJapan Grand Prix開催の話を聞いた時は「絶対行かなきゃ!」と即決したよ。

―大会はどうでしたか?

D:すべて大満足だったよ!参加者のことをよく考えてくれた運営に感動したし、会場のロケーションも文句無しだった。何より世界中、アジア中の、才能溢れるアーティストたちが集まった空間はとてもワクワクしたよ。本当ありがとう!

―これを読んだら、運営のスタッフたちは皆とても喜ぶと思います!ありがとう!ところでダニエルはいつから絵を描いているの?

D:子供の頃からずっと描いていたよ。僕はドイツの出身なんだけど、子どもたちは皆サッカーが大好き。でも、僕はその頃からお気に入りのキャラクターを描いたり、オリジナルのキャラクターを作ったりしていました。美術大学に進んだ後は、アニメーション、映画製作、脚本などを学びました。一番得意だったのは、物語とイラストの両方の要素を併せ持った、ストーリーボード(絵コンテ)でした。ちなみに卒業制作で作った映画は、国際フェスティバルでたくさん受賞しました。

―ダニエルは映画監督になりたかったんだよね。

D:そうなんだ。ところが運命は僕を別の道に導いたんだ。とある友人の結婚式で、ライブスケッチを依頼されて描いてからカリカチュアの魅力に取りつかれて、以降、本格的に学び始めたんだ。

―ライブスケッチではどんな画材を使っていますか?

D:160gの紙、ぺんてるGFKPの筆ペン、薄めたインクを入れたぺんてるの水彩絵筆。これが僕のスタイルです。

―普段、お仕事は何をしていますか?

D:2/3はライブ。1/3が注文の作画です。イベントは、ヨーロッパ各地を廻ります。アナログもデジタルも両方。注文の作画は、主に企業の広告イラストやテレビなどのメディア関係、あとは絵本の挿絵なども行っています。

―これまでダニエルさんが影響を受けたアーティストは誰ですか?

D:数多くいます。子供の頃はアルベール・ユデルゾやMADマガジンのセルジオ・アラゴネス、ジャックデイビス、モート・ドラッカーなど。のちにコミック・アーティストのメビウスやエンキ・ビラル。カリカチュアでは、セバスチャン・クルーガーやネイト・キャプニッキー、ジョー・ブルームなどがいます。そして、僕のスタイルに大きな影響を与えたアーティストがキム・ジョンギ氏。彼の作品には深く感銘を受けました。

―キム・ジョンギは確かにダニエルと共通する作風ですね!

―さてさて。ダニエルに一番聞きたかったことを聞いてみたいです。準備はいい?

D:もちろん!なんでも聞いてよ。

―ズバリ「受賞」について。僕はダニエルこそ、現代の最強のカリカチュア・アーティストだと考えています。理由は、2018年の初めてのISCA世界大会でいきなりGolden Noseyを獲得。そしてEurocature、Japan Grandprixと、3大国際大会にすべて優勝。そして、ISCAではカリカチュア・オブ・ザ・イヤーを7年連続で優勝(現在も進行中)。これは史上初の偉業であり、歴史に残る記録だと思います。受賞はたしかに「目的」ではないけれども、参加者にとって大きな「目標」だとは思います。そこに夢を見ている人が多くいます。ただ、それはとても難しいこと。そして様々な考えもありますよね。どうしたらダニエルのように受賞が出来るのか。あなたの考えや戦略などを是非、聞かせてほしいです。

D:ありがとう。うん、うん、これは皆が興味を持っている重要なトピックですね。よし!しっかりと答えましょう。まず、受賞に明確なアンサーはありません。ただ、僕が必要だと思う3つの要素を皆さんにお伝えします。

第一に、高い技術を習得すること!これは絶対です。つまり練習、練習、練習です。先生や仲間から常に学ぶ姿勢を持ちましょう。

第二に、オリジナルのスタイルを確立すること!これは計画的に生まれるものではなく、自然発生するものです。常にアンテナを張り、刺激を受け入れて、取り入れて、試してみる。身につくものもあれば、身につかない場合もあります。実際、僕の周りには努力していても、なかなかスタイルを確立しきれない人が多くいます。でもそれは問題ではないんだ。私たちの仕事の使命は、この絵で人を喜ばせること。しっかりとした技術を身につけていれば、オリジナルのスタイルがなくても十分絵で暮らしていくことは出来ます。それだけで十分、素晴らしいことなんだ。

最後に三つ目。それは「驚き」の要素。大会では、ライバルたちを驚かせ、心を掴んで、感動させるために、意外性のあるギャグやモデル間のストーリー性、誇張表現などが大事です。会場には、非常に優れたアーティストが多数集まっています。単に上手いだけでは選ばれるには不十分なんだ。

―すべて納得です。僕もこれまでの20年以上、大会で目の当たりにした様々なスタイルに影響を受けてきましたが、取り入れて残っているものもあれば、チャレンジしたけど、不向きに感じて捨てたものがあります。最後の「驚き」は、石原瞳も言っていましたね。

D:しかし!大事なことを付け加えるよ。1~3まで、すべての要素を満たした上でも、受賞が叶わないこともあるんだ。理由は「運」なんだ。その年は、別の作品がより評価される。残念ながらそんなこともあるんだ。ジョニー・デップやハリソン・フォードを見て下さい。彼らは世界的に知られている素晴らしい名優であるにも関わらず、一度もオスカーを獲れていないよね。

―たしかに。つまり、受賞と能力は必ずしも一致しないということ?

D:そうなんだ。だから必要以上に執着する必要はないということなんだ。「受賞」は、向上心やモチベーションになる一方で、挫折、失望、悲しみを、引き起こす要因にもなるんだ。だから、僕は皆にこういう大会の参加の仕方をオススメしたい。大会では、自分自身の最高の作品を創ることに目標を置く。これを成長の機会と考えて挑戦をする。そして良い仲間と知り合うこと。素晴らしい友情を築くこと。たくさん学んで、良い思い出をつくる場とすることです。

―とても素晴らしい考え方ですね!僕自身の経験ですが、過去の僕は賞を取ることに集中し過ぎて、人との交流をおざなりにし、思うような結果にならなかった時に勝手に落ち込んでいて、師であるヤン・オブデビークさんに叱られて、ハッとした経験があります。そんな僕が受賞したところで誰も祝福する気持ちになれないですよね。今では誰よりも大会を楽しんでいる自信があります(笑)。

D:ハハハ!でも真剣に絵と向き合う君たちの姿勢は素晴らしいよ。僕も聞いてもいい?なぜ君たちはそこまで受賞にこだわっていたんだい?

―僕がISCA(当時NCN)に初参加したのは2003年。僕は「カリカチュア」という、当時日本では馴染みのない言葉を謳って、起業をしたばかりでした。出店するにも、企業と契約を取るにも、信用が足りませんでした。だから、国際大会の受賞歴という証明によって、信頼を得る必要がありました。お金もなかったし、米国まで行く以上、遊び半分な気持ちは一切ありませんでした。

D:僕もまったく同じ気持ちだよ。「日本に僕の兄弟がいた!」という気持ち(笑)。

―僕らは会社の名前を「カリカチュア・ジャパン」としました。だから常にカリカチュアを背負っているという責任を感じているし、カリカチュアの最前線にいたいと考えています。今でも、若い人たちの新しい技術を見るたびに、勝ち負けではなく、すげー!と興奮しているし、学びたい!という気持ちでいます。

D:勝ち負けではない、というのが良いね。僕も同じだよ。賞は、食後のデザートみたいなもの。美味しいけれども必須ではないんだ。時に、デザートは不健康(傲慢)になる可能性もあるからね。

―ダニエル、今日はお時間をありがとう!とてもとても良い話を皆に共有できることをとても嬉しく思っています。

D:僕は必ずまた日本に戻ってくるよ。次はもっと深く日本を知りたい、体験をしたいと思っています。ありがとう!

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◆受賞歴

2018年ISCA世界大会
・Best Caricature Artist of the Year /総合1位
・Best Caricature of the Year /作品賞1位
・Outstanding Group Composition /グループ構成部門 1位
・Outstanding Body Situation /体つき部門1位
・Black and White Technique /白黒部門3位
・Rookie of the Year /新人賞

2018年Eurocature大会
・Best Traditional Caricature 受賞

2019年Eurocature大会
・Best Traditional Caricature 受賞
・Best Political Caricature 受賞

2019年ISCA世界大会
・Best Caricature of the Year /作品賞1位
・Outstanding Group Composition /グループ構成部門 1位
・Outstanding Body Situation /体つき部門1位

2020年ISCA世界大会
・Best Caricature of the Year /総合1位
・Outstanding Group Composition /グループ構成部門 1位

2021年ISCA世界大会
・Best Caricaturist of the Year /総合2位
・Best Caricature of the Year /作品賞1位
・Outstanding Group Composition /グループ構成部門 1位
・Best Live Event Style/ ライブスケッチ部門1位

2022年ISCA世界大会
・Best Caricature of the Year /作品賞1位
・Outstanding Group Composition / グループ構成部門 1位

2022年World Humor Award
・Caricature Little World Award/ カリカチュア部門3位

2023年ISCA世界大会
・Best Caricaturist of the Year/総合3位
・Best Caricature of the Year /作品賞1位

2023年World Humor Award
・Caricature Little World Award/カリカチュア部門2位

2024年ISCA世界大会
・Best Caricaturist of the Year/総合3位
・Best Caricature of the Year /作品賞1位

2025年Japan Grand prix 2025
・Best Caricaturist of the Year /総合1位
・Best Caricature of the Year /作品賞1位

◆Instagram

https://www.instagram.com/daniel.stieglitz?gsh=YWs4YzJhazg0cGox

◆HP

https://www.schnellzeichner-stieglitz.de/

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Member Interview」の過去記事はこちらからご覧いただけます。
https://nigaoe-artist.com/category/member-interview/