Member Interview vol.15
『斎藤篤さん& mikiさん ご夫婦』
(聞き手・Kage)
全国各地で活躍する、
日本似顔絵アーティスト協会の皆様の、
多種多様な考えや働き方をご紹介する、
Member Interview。
今回は【齋藤さん&mikiさん ご夫婦】に、ご登場頂きました。
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―(Kage)本日は豪華なゲストをお招きしました。
とてもワクワクしています。齋藤篤さんとmikiさんご夫婦です。
本日はよろしくお願い致します。
齋藤さん & mikiさん:
よろしくお願いします。
―まず、おふたりはもともと同級生なんですよね?
mikiさん:
そうなんです。専門学校が同じでした。
齋藤さん:
学科もクラスも同じで、出席番号も1つ違いでした。
入学前の面接の時に1つ前のカミさんの絵がチラッと見えたのですが、あまりに上手くて
ビックリしたのを覚えてます。
―mikiさんは卒業してすぐに似顔絵をやられたのですか?
mikiさん:
いえ、一度デザイン会社に就職しました。
すぐに辞めてしまいました。
―理由とか聞いても大丈夫ですか?
mikiさん:
人間関係ですね。
上司の悪口とか聞いているのがシンドくて…。
辞めた後はコンビニでアルバイトをしながら、好きだったビートルズの、ファンクラブ会報誌に、イラストを描いたりしていました。
―そうだったんですね。
僕は2002年にお台場で創業したのですが、休憩にアクアシティへ行っていたのですが、そこでよくmikiさんを見かけました。
サンプルの絵がスゴイうまくて、勉強に立ち寄って見ていました。
mikiさん:
本当ですか(笑)
「星の子プロダクション」には2000年に入って、トータルで5, 6年描いていました。
―今思うと、すごいメンバーが集まっていましたね。
mikiさん:
あの時代に、あのメンバーといられたからこそ、今の作風を見つけられたと思っています。
―齋藤さんはいかがですか?
齋藤さん:
僕は、これといってやりたいことがなくて、あまりマジメに就職活動をしていなかったのですが、専門学校の先生の紹介でデザイン事務所に就職しました。
雑誌、新聞広告、店舗用のポスターやPOP等、紙媒体の広告を制作する下請け会社でした。
当時はパソコンが現在ほど普及していなかったので、写植や紙焼きなどで、すべてアナログで入稿用の版下を作っていました。
―似顔絵はいつから描き始めたのですか?
齋藤さん:
企業や地方自治体がデザインやキャラクター、写真などを公募する「公募ガイド」という雑誌が
当時ありまして、それにカミさんと送っていました。
選ばれると賞金が出るので、それを目当てに(笑)
ある時、その中のひとつに似顔絵を見つけました。
山梨県の櫛形町という今は吸収合併された町が募集していた、似顔絵グランプリに応募しました。
賞金が50万円。
もう、二人で出そう、と!(笑)
カミさんのパソコンを借りて、デジタルで作画して送ったところ、僕がグランプリ、カミさんが佳作を取れたんです。
その賞金で初めてMacを買いました。
―それで似顔絵の楽しさを知ってしまったと(笑)
mikiさん:
今度は2人で週刊朝日の「似顔絵塾」への投稿を始めました。これも掲載されると6000円
もらえる(笑)。投稿したら2人揃って掲載されて、6000円の為替が届きました。
絵も載って、お金も頂けるなんて、最高だね、と。そこからバンバン出すようになりました。
―そう! そういえば、僕が初めて齋藤さんを見たのは、週刊朝日の「年間最優秀大賞」の記事でした。
齋藤さん:
あれを獲るには、5年かかりました。
毎年、掲載の多い特待生から5名ほどノミネートされます。
山藤さんと編集長、その年を代表する著名人2名が座談会をして、大賞を選出するんです。
もともと僕はお小遣い稼ぎが目的だったから、それを狙っているつもりはありませんでした。
1年目に光栄にもノミネートされましたが、逃しました。別に特別な感情はありませんでした。
2年目もまたノミネートされて、逃しました。
3年目も同じで、またダメだった。
4年目もまたまた同じで、逃しました。
そこで、さすがに悔しくなりまして。
5年目はもう、計画をしっかりと立てて、本気で勝負したんです。そうしてやっと、
大賞を取ることが出来たんです。
今までの人生で一番、ちゃんと頑張りました!
―似顔絵塾は、掲載+賞金がつくなんて、とても夢のある企画ですよね。
齋藤さん:
雑誌不況のせいか、今は賞金も減ったようです。
80年代は掲載料が1万円ついたそうです。
バブルの時代には、朝日新聞の旗がついた車が迎えに来て、受賞者を料亭に連れていって、もてなしてくれたそうです。
―それはすごいな!(笑)
齋藤さんが赤坂あたりの料亭で緊張しながら食事をしているのを想像すると笑ってしまいます!
こうして技術が磨かれていったわけですね。
齋藤さん:
社内でも僕がある程度似顔絵が描けるというのを知ってもらえるようになり、仕事内容もイラストやカットに変わっていきました。
当時の主なクライアントは電通さんでしたが、絵が入ったプレゼン資料の方が企画が通りやすいとのことで、ドコモダケや企業ロゴの入ったグッズなどをよく描いていました。ちょうどdocomoがフォーマという第3世代の携帯電話サービスに変わる時で、グッズイラストの制作のため徹夜や朝帰りで締切に追われる日々でした。
ところがリーマンショックで仕事がピタリと止まってしまいました。
10名弱のアットホームな会社でしたが、だんだん周りの人から肩を叩かれるようになりました。
僕は絵が描けたから重宝がられていましたが、そんな僕もついに声をかけられてしまいました。
その会社は間もなく、なくなってしまいました。
―多くのデザイン会社がこれを経験したのでしょうね。
齋藤さん:
カミさんに話したら、フリーを勧められたのですが、僕は16年間会社勤めをしていましたし、
住宅ローンも組んでいたので相当悩みました。
失業保険があったお陰で1年の猶予がありました。ハローワークに行くとデザインの仕事はあるけど、僕は、やっぱり絵を描きたかったんです。でも、そんな仕事はなかなかなくて。
また、僕の場合は年齢の壁もありました。
あっという間に時間は過ぎて、あと1ヶ月で保険が終わるという時、カリカチュアジャパンの第1回会社説明会の告知を見つけました。
当時、僕はKageさんや本間さん達のブログを毎日のように見ていたんです。
絵は他の似顔絵屋さんと何か違った感じでユニークで上手い。お店ではクルクルと紙を回しながら色を塗るのがとても新鮮で、興味深く見ていました。
カミさんに言ったら、嫌がるだろうな~と思って、なかなか言い出せなかったんですよ。
でも、どうせなら絵を描きたいし、ずっと気になっていたし。やっとの思いで話したら、やはり嫌な顔をされました(笑)
―あの会社説明会。僕も忘れません。本当にビックリしたんですから!
そんなお二人が描く作品について、詳しく伺いたいと思います。
まず、mikiさんから。
mikiさんのすごい所って、年々絵が更新されていくというか、作風がどんどん変化していくじゃないですか。どうやったら1人のアーティストがあれだけ様々な表現ができるのか?僕には不思議で仕方がないです。
mikiさん:
単純に自分で飽きちゃうんです。
もともとリアルに描くのが好きでした。ビックコミックの日暮修一さんやペーター佐藤さんに
憧れていましたし。
でも「星の子プロダクション」で佐々木さんや田畑君など、色んな人たちから刺激をもらって、自分はシンプルなものが好きなんだ、と分かったんです。
フリーになる時に、自分にしかないものを出そうと思っていたし。
そこで目指すべきスタイルがほぼ確立しました。
―僕はmikiさんの絵の大ファンで、元町の個展なんかではいろいろ買わせて頂きました。
エルビスプレスリーの作品は本当に良かったです。
mikiさん:
あれは、デザインとリアルの融合を試行錯誤をしていた時期なんです。
齋藤さん:
もう絶対やらないんですよ。
それを絶対曲げないんです。
―あれが試行錯誤ですか。完成形でしょう(笑)
mikiさん:
形が決まるまでは楽しいんですけど、塗り込んでいるうちにそれが作業になってしまって、
楽しくなくなってきちゃうんです。
楽しくないと嫌だな、って思ってやめました。
ただ、斎藤を含め、あの時の作風を好きと言ってくれる人が結構多くて。次の展示会の時に来たお客様に、「変わっちゃったんだぁ」と残念がられました(笑)
―でもやらない、と。
mikiさん:
もうやりません(笑)
―そのこだわりがかっこいいんですよね。
あと、大事なことが1つあります。
mikiさんの作品はどれも素晴らしいのですが、「デザインポートレート」と言う言葉は、僕は最高の傑作だと思っているんです。
僕自身、アメリカで6年絵を勉強してきて、帰国して創業をした時に、皆喜んでくれると思っていたら、誇張すると「似ていない」と言われて、かわいく描くと「似てる」と言われました。
この伝わらない感じに耐えられなくなって、しばらく「似顔絵」という言葉を一切使わずに、特徴をユニークに表現する「カリカチュア」なんだ、とすべての表記を統一してきました。
mikiさん:
Kageさんと同じです。フリーでやるなら、他とは違うことをやりたかったし、自分のスタイルも確立できたので、分かりやすい伝え方をしたいと悩んで、作りました。
―あと、mikiさんがSNSに投稿される作品の数にも驚きます。いったいいつ描くのですか?
mikiさん:
夜中です。
こどもがいない間に仕事をして、こどもが寝てから作品を作ります。
齋藤さん:
僕がだいたい12時頃に帰ってきて、1日の話とかしながらご飯を食べます。
それで1時頃に風呂に入るんですよ。
mikiさん:
そこからがスタートです!(笑)
個展やグループ展もそうですけど、SNSにあげて、色んな人に見てもらいたいというのが描くモチベーションになっています。そういう場がなければ、きっとここまでは描いていないかも。
―齋藤さんも、毎日電車でスケッチしていますよね。
齋藤さん:
もともとはスケッチブックに描いていました。
でも、溜まると処理に困るんですよ。別に見返すこともないし。
そんな時に、スヨンちゃん(カリカチュアジャパンのアーティスト)がiPadで描いた電車内の
スケッチをフェイスブックで見て、これならば手軽で良いな、と思ったのがきっかけです。
早速、アマゾンで1500円ぐらいのスマホ用のスタイラスペンを購入して、お絵描き用の無料アプリを使って、スマホで描いています。
これならば絵を描いているとは思われないし、覗かれることも怪しまれることも、ありません。
―毎日継続するのもスゴイです。
齋藤さん:
今は日課になってしまって、描かないと気持ち悪いんです。
良いモデルがいてもすぐ降りたりしちゃうから、結構スピードも求められるんですよ。
―1日のスタートにウォーミングアップになりますね。
そんな技術に熱いおふたりのこだわりは何ですか?
齋藤さん:
個人的には、僕はめんどくさがり屋なので、絵具を溶いたりするのが結構苦手です。
デジタルはかさばらないし気楽で好きです。
―いや、でも齋藤さんは本社のスタッフにはとても評判なんですよ。
本社スタッフがお客様に絵を納品する際、たまに細かな汚れを発見したり、注文内容に沿ったものであるか、微妙な仕上がりに感じる時があります。こうした時、本社スタッフはアーティストに伝えづらいものなのですが、斎藤さんが本社にいると、すぐに電話をとってそのアーティストに指摘して下さいます。
齋藤さん:
あっ!お客様の絵に関しては、こだわりはあります。
僕は、顔を描かせて頂いていると思っています。わざわざお店に来て頂いて、絵を描かせて頂く。この喜びを常に噛みしめています。
前職では、作ったものは流れ作業で納品し、担当者からの受領の返信のみでしたが、この仕事は違います。お客様とやり取りをして、「ありがとう」という喜びの反応を直に頂ける。
これが本当に嬉しいんです。僕はこの仕事を続けて8年目ですが、1日があっという間に終わるんです。それこそ、あっという間に夜になります。
以前、辞めていった後輩に聞かれたことがあるんです。
「篤さん、ずっと描いていて飽きないんですか?」と。
僕は、飽きないですね。
生活必需品ではない絵にお金を出してくれるって、本当にすごいことだと思います。
1,200円とか1,800円あれば、けっこういいものが食べられます。
価格以上の価値を感じて頂けるように、心を込めて描いています。
―インタビューをしていて、涙が出そうになったのは初めてです。
ありがとうございます。
mikiさんはいかがですか?
mikiさん:
似せることが楽しいので、顔以外あまり興味がないんです。
でもこれが一番大事なことで。一番難しいことで。
似せるということに一番こだわっています。
―互いに、絵を批評したりするんですか?
齋藤さん:
昔はありましたが、今はないです。
僕がこれよくない?とか斬新じゃない?と言っても、カミさんは全然反応しないんですよ。
逆もしかりですけど。互いの批評も、結局、お互い険悪になるから、もうやめました(笑)
mikiさん:
私たちは2人とも描くことが好きだけど、誰かのために描くことと、自分のために描くことと、お互いに影響し合うことはないんです。
―なるほど、どっちも素敵ですよ!
最後に、おふたりのこれからの夢や目標があればお聞かせ下さい。
mikiさん:
私は媒体で、似顔絵ではないイラストも描かせてもらってますが、似顔絵でイラストの仕事を
成立させることが理想です。
日本大会でゲストで来られる、ちたまロケッツさんはそういう仕事をたくさんやっていらっしゃるので、講演で勉強をしたいです。
私の絵はわかりにくい所もあるので、使いづらいのかなぁ。。。と思っています(笑)
齋藤さん:
僕は仕事がお客様ありきなので、もうちょっと自分ならではの、突き詰めた絵を描いていきたいです。
カリカチュアジャパンは、最近うまい子たちが増えてきているので、オチオチしていられないなと思っています。
もちろん、仕事は常に価格以上の価値を感じていただける絵を提供していきたいですし、その打率を上げたいと考えています。
―お二人とも、本日は貴重なお話しをたくさんお話し頂きまして、ありがとうございました。
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【プロフィール】
斎藤 篤
横浜日本デザイナー学院卒業。
卒業後、東京のデザイン事務所に入社し約16年間勤務。
2010年、カリカチュア・ジャパン株式会社に入社。現在に至る。
【受賞歴】
1997年 「第3回 日本一似顔絵コンクールくしがたグランプリ」グランプリ
2001年 「週刊朝日第20回似顔絵大賞」優秀作品賞(安藤優子賞)
2008年 「週刊朝日第27回似顔絵大賞」大賞
2010年 「名古屋・似顔絵楽座 2010 S1大賞」作品部門大賞
2011年 「週刊朝日第30回似顔絵大賞」優秀作品賞(編集長賞)
2011年 ISCAコンベンションin Florida 白黒部門/3位
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【プロフィール】
ポートレーター
miki
横浜日本デザイナー学院卒業。
雑誌投稿で似顔絵の面白さにめざめ、2000年(株)星の子プロダクションに所属。
各地で似顔絵を描き、2006年フリーとして活動開始。
『デザインポートレート』という独自のスタイルで、シンプルに似せることを追求中。
現在、書籍・雑誌等でイラストレーターとしても活動中。
【受賞歴】
2005年 ISCAコンベンション(国際似顔絵大会)in LasVegas 総合5位 デザイン部門2位入賞
2007年 ISCAミニコンベンションin Tokyo 大会総合4位入賞
2009年 ISCAミニコンベンションin Tokyo 大会総合5位入賞 デザイン部門優勝
2010年 ISCAミニコンベンションin Korea 総合3位/デザイン部門優勝/ライクネスコンペ3位/作品賞3位/韓国の有名人似顔絵コンペ優勝
2011年 ISCAミニコンベンションin OSAKA デザイン部門2位/スタジオピースコンペ3位受賞/ISCAコンベンションin Florida デザイン部門優勝/スタジオピースコンペ2位受賞
ホームページ : http://boo-bana.com
Instagram : @portrator_miki